桜の国の言葉と文化からインスピレーションを得る旅

国民性は気候や地形など地域(国)の環境により、時を重ねながら形成されたと推定できます。言語と文化はその国民気質から育まれたと言えるでしょう。日本は温暖な島国で西洋から見て極東に位置しています。ほぼ単一民族で、今では一億人以上が住んでいます。

島国であるため、他の地域へ移動することも逃げ出すことも困難です。また、共同作業が伴う農耕を主として来た日本人は、自然と、また他人とも共存することが必然的に求められてきたと言えます。その円滑油となったのが他人への思いやりと考えられます。

今日でも日常的に使われる「よろしくお願いします」「お世話になっています」などのフレーズや謝罪、また、あいさつや感謝で頭を下げるおじぎなどはその反映と言えるでしょう。また、その気持ちが他人に迷惑をかけてはいけないという国民性に発展したと思えます。

鳥の鳴き声は単に感情を表す音と解釈されてきましたが、最近の研究では鳴き声それぞれに意味があることがわかってきました。例えば、蛇が近づいている鳴き声とタカが現れた時の鳴き声は異なり、それを聞いた他の鳥はそれに対応した行動をとっているとのことです。

他人を思いやる意識は日本語の言葉や仕組みだけでなく、多くの日本文化の下敷きになっています。日本は西洋から見れば極東にある島国で、中国とも海を隔てて離れています。外国から侵略されたことがない風土の中で、独自の言語と文化を築いてきました。

孤立的に成熟した言語や文化は近代化を果たした今も保たれています。外国、とりわけ西洋から見れば、日本は未知の文明国です。日本語道は、日本語の原理を学び、その果実を得ながら、文化や価値観や精神性に触れてインスピレーションを得る知的冒険の旅と言えます。言い換えれば、茶道の世界に近いと言えるでしょう。茶会は単にお茶を楽しむ会ではありません。お茶を通じて作法やおもてなしなどの修行をして、精神性を高めることにあります。日本語道のゴールは、世界には異なる社会があることを認識し、共存する大切さの自覚です。

日本人の言動原理「思いやり」が反映した日本語の特性

他人をいたわる独特のフレーズ

「お疲れ様」「ご苦労様」「お陰様で」「いただきます」「ご馳走さま」「いらしゃいませ」「お邪魔します」「行ってきます」「行ってらっしゃい」「ただいま」「お帰り」など外国語に訳せない、相手を気遣う心から生まれた日本独自のフレーズがたくさんあります。

主語を言わないやわらげる表現

例えば「それは、許せない」という表現。許せないのは自分なのか、関係者全員なのか、社会通念なのか、はっきりしません。英語では主体を明確にしますが、日本語では相手がどう受け止めるかは相手にゆだねます。あいまいさはやさしさの裏返しともいえます。

相手の気持ちを察する文化

自宅を訪れた客が「今日は暑いですね」と言えば、飲み物を欲しいていると察して、冷たいお茶を出すのが日本人のもてなしとされます。日本人の察する文化のベースは、相手への思いやりです。ダイレクトな言葉だけがコミュニケーションではありません。

相手に敬意を表す敬語

自然と共存し、儒教の影響を受けた日本人は力あるものや目上の人に敬意を払う慣習が言葉にも反映されたと考えられます。そのため、神に「様」をつけ「神様」、父や母には「お父さん」、「お母さん」と敬語の「お」、敬称の「さん」をつけて呼びます。

仲間意識を助長するカジュアル表現

第三者には敬語を使いますが、仲間内では、くだけた「ため語」を使うのが一般的です。日本語にはさまざまな言い方があり、親しさや人間関係で変えます。例えば、「行きましょう」は、「行こうよ」「行かない?」「行かねーの」など表現がたくさんあります。

相手に寄り添うあいづち

外国人から日本語はあいづちが多く、煩わしいという指摘をよく受けます。しかし、日本人は相手の話をしっかり聞き、相手の気持ちに寄り添って反応しているのです。これにより、話し手も聞き手の反応に合わせて語尾のトーンや言い回しを変えられるのです。

結論を変えられる文型

日本語は動詞が最後にくるので、例えば、「~と思います」は「~思いません」のように最後でひっくりかえることもあります。また、相手の反応を見ながら、「~と思いましたが、~という考え方もあります」ので結論を強めたり、弱めたりもできます。

日本語道は未知の社会への探索!―知的興奮に浸るひと時―

不条理な世の中で気軽に未知の社会をのぞき、インスピレーションを得る旅が日本語道です。日本語を学ぶことは、地球上の別社会で生まれた概念(思考のOS)を体験する機会となります。そして世界が一つの共存社会であることを肌で感じられるでしょう。

日本語道の精神をわかりやすく世界に広めることが私たちのミッションです。

一般社団法人 スーパー日本語講師会

理事長 長谷川勝行